第一話 起床

破滅のパラディン ~時を経て再び動き出す~
破滅のパラディン ~時を経て再び動き出す~第1章
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第一話 起床


 どれだけ時が過ぎたのだろうか。
 声も出せず、体も動かせず、ただ真っ暗で一寸の光も差し込むことのなかった視界がゆっくりと色付き始める。

「お目覚めになられましたか?」
「お前は誰だ? ここはどこだ?」
「お初にかかります。私はマル・ピシェラ。あなたの父君の血を注ぐものでございます」
「父さんの?」
「ええ」

 薄暗い部屋の中には、一つのベッドと小さな丸い木の机、机の上にはノートパソコンがおいてあり、その奥には冷蔵庫が見える。そして男2人のみ。
 パラディンはようやく自分の現状を理解した。自分にかけられた炎は跡形もなく消え去っており、自分はこの男に助けられたのだと。この男は味方だと。

「ありがとう。助かった」
「辛かったでしょう。しかしあなたを縛るものはもうありません。あなたを苦しめた奴らを殲滅しましょう!」
「ああ、今度こそ勇者を倒し、人類を滅亡させる!」

 パラディンはベッドから足を下ろし地面に立つと異変に気づいた。
 今までとは目線の高さが違っていた。下から見上げていた景色だったのが、マルと目が合う高さになっていた。
 どうやら身体は大人と呼ぶにふさわしいくらいに成長しており、パラディンは自分が自分でない気がした。

「身体が成長している?」
「ええ、あなたが眠られてから既に300年も時が過ぎております。成長するのも当然かと」
「俺が動けない間に300年も……。ではなぜ死んでいない? 老いていない?」
「あなたのちから、【メテオラ】によるものかと思われます」
「確かに傷を負っても超回復していた。不老不死の力もあり、これ以上成長しないということか」

 パラディンはマルの両手の上にある衣類に手を伸ばし、服を着ながら問いかける。

「勇者について何か知っていることはあるか?」
「……いえ、ただ勇者は既に死亡しており、その末裔が現在の世界を牛耳っているとしか……」
「なら、そいつらを倒さなければ目的は達成されないと」
「ええ」

 パラディンは何か考え事をするかのような表情を浮かべた。
 目的を達成するために必要なことが2つあったからだ。
 一つは同じ過ちを繰り返してはならないこと。そしてその過ちは既に知られていることだ。
 なぜ負けてしまったのかを考えるとその原因はすぐにわかった。頭を防ぐと情報処理能力が落ち、自己回復速度が低下する。その隙に全体を攻撃することで動けなくなった。そして、頭を狙うという方法は既に知られていると言うことは、また負ける可能性が高いということだ。

 もう一つは誰が【プロミネンス】の能力を持っているのかということ。
 勇者の末裔が持っていることは確かだが、何人いるのか、そのうちの誰が能力持ちなのかを知る必要がある。そして、その能力の弱点を見つけないと、勝てる見込みはない。

「何か対策を考えないとな……」
「ええ、我々は敵に対する情報が非常に少ない。まずは情報を集めないと行けませんね。では、こちらで少しばかり情報を収集してみてはいかがでしょうか?」

 机の上に置かれていたノートパソコンを指先で示す。
 パラディンはノートパソコンの方に目を向けるとゆっくりと歩き出す、ノートパソコンを手に取る。

「色々と文字が書いてあるし重たいしなんだこれは?」
「これはノートパソコンというもので、誰もが所持しているもので、現代ではこちらで情報収集するのが一般的です」
「……読めない。俺の故郷では文字は扱っていなかった。これは勉強する必要があるな」
「こちらはとても優秀な機械ですので、文字の勉強も容易です。調べながら勉強してみてはいかがでしょうか?」
「そうするよ」

 パラディンは拙い動きをした人差し指で一つずつポチポチとボタンを押した。

 現代は、インターネットが発達し多くのものがデジタル化した世界。
 車や電車には運転者はおらず適切な車間距離で走っており、ビルの側面にはドデカいモニターが張り付いて、広告が表示されたりニュースが流れたりしている。
 また、多くの場所に監視カメラが設置されており、リアルタイムで映像が犯罪防止委員会に受診され、人物の名前から住所、家族構成まで全て分かるこの世界の犯罪者の検挙、逮捕率は100パーセントである。

 そんな世界にパラディンはどう立ち向かうのか。
 文明が進化したこの世界で人類に立ち向かうことの難しさや、なぜ長い時を経て動き出すことができたのか、この時のパラディンには知る由もなかった。


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